誰もかもを受け入れているようで諦めているようなお姉さんの話
お知り合いになって数年来のお姉さんがいる。
仕事上でのお付き合いのみで、私的な事柄を伺う機会はこれまでなかった。
それがちょっとした余暇の都合というか、相手のお姉さんが少し気を許されたのか、ポツポツとお人柄が分かるようなお話を2人きりの会話において聞かせてくださった。
そのお姉さんは誰にでも微笑む。いや、微笑んでいるように見える顔立ちをされている。子犬時分のゴールデンレトリーバーみたいな顔立ちだなと私はこっそり思っている。
お姉さんは相手の小さな挙動や言動をつぶさに拾い、返答する。
あなたのこと気にかけているよ、あなたと無為なコミュニケーションをとる意思が私にはあるよ、と暗に示すかのように、猫じゃらしが手のひらスレスレをスイングするぐらいの微かなアクションを関係各位にまめまめしく振りまく。
他者を気にかけている態度が常々貫徹している印象で、そんなお姉さんは満遍なく周囲の人間に当てにされ、頼りにされ、好かれている。
実際に、バッチリ仕事の出来るお姉さんだから誰彼から格別の不興を得ることは想像し難い。
「完璧主義だから、他人が許せない」
そうお姉さんが話されたとき、その完璧主義が及ぶ範囲はどこまでになるのかなと思いながら聞いていた。
「他人の鼻歌や口笛の、音程やリズムがズレていることも絶対に許せない。耐えられない」
えーじゃあカラオケとか絶対無理ですね、って答えたら
「うん。本当無理」
と仰った。
話すうちに、お顔のパーツがよく似ているらしい御姉君の話が出た。
「パーツは全部私といっしょなんだけど、全部が全部小振りで、小さいの」
「私の過度に秀でた額も、顔の正面から視認できない耳も、姉には見当たらない特徴なの」
「それを姉と姪がしつこく揶揄してからかうの」
乾いた笑い声を交えてそう仰る。
「こんな私に結婚して誰かと生活を共にするなんて不可能だから」
「5年ごとに再会するぐらいの関係がいいわ」
等々のご発言が続いて、新婚当初からその別居期間は長いですよー!なぞ笑いつつ、
でも貴方は常日頃から他の人に優しく接してられるじゃないですか、と訊いた。
「優しいのかな?そんなつもりはないけど、手を抜きたくないだけで、優しくしているつもりはない。私って優しいの?」
うーん。相手が優しいかどうかっていうのは個人の主観的な感想ですよね。自分のこと気にかけてくれてる気がする、相手してくれる、この人は自分のことをそこそこ以上に大事にしてくれているって思ったら、その人にとってその相手は”優しい”ですよね。
「…そっかー」
…一気に答えてから、あれ私けっこう酷いこと言ったか?と思った。
あなたの親切懇意に見える態度を、私はそういう作り付けのものであると認識していて、あなたのことを「優しい人」だとは思っていないと。
まさに、はっきりと表明してしまったのではないか、と。
いや、改めて追想して確信したけど、そう表明しちゃってるわコレ。
素直過ぎるのは私の長所でありマジで短所…思い知る…。
そんなこんなの、そんな会話を通して、お姉さんの人となりが少し垣間見えた気がした。
「他人を許せない」という態度がご自身にも同様に向けられているように感じた。
この方、優し気でフレンドリーなんだけど、なんだかなーと自分の中でわだかまっていたものが、すっきり明解になった。
主に自分の予想外の発言によって、だけど。
この方自身がこう在るべきだと判断した上で選択している態度だから、誰彼構わず平等に向けられ、ある意味で独りよがりの態度であるから一貫していて、ブレない。
通りすがりの他人の距離感で過ごす分には、安心できる。
だって誰に対しても基本的には攻撃的でない同じ態度だし、反応が読み易いから安心して過ごせる。
それと詳しいことは預かり知らぬが、自分自身に不満を持ち「許さずの態度」を貫くのは健康衛生上よろしくない様な気がした。
他人に向ける態度はすなわち自分自身に向ける態度へ転化される。逆も然り。
お姉さんの、微笑んだようなお顔持ちは、ゴールデンレトリーバーの子犬の様な垂れ目ゆえであったんだなぁ。目が笑ってなくても見過ごせたんだなぁ。
本当に好き好きオーラが出る時は、この方もっと表情がくしゃっと綻ぶもんなぁ。
でもそれって、いっつも、あの妻帯者のオジサンの隣にいらっしゃる時なんだよなぁ。
……うっっっ。
なんかすげーダメージを受けた気がする。
以上です。